2021年02月03日
落椿
本部へ向かう途中、ヤブツバキの花が見たくなり名護市
の許田に立ち寄る。市指定文化財の湧水「許田の手水」
が流れ落ちる岩の上にツバキの花が落ちていた。
辺りは拝所のような雰囲気。左右を見あげると、紅い花を
つけた高さ3~4メートルほどの数本のヤブツバキが生え
ていた。
馬よ引き返せしばし行き見ぼしゃ
音に聞く名護の許田の手水 (玉城親方朝薫)
「許田の手水」の案内板に記されていた琉歌。
湧水「許田の手水」の恋物語の民間伝承を元に平敷屋朝
敏は組踊「手水の縁」を創作した。
ヤブツバキの花が落ちていたのは、「許田の手水」の湧水
を受け溜める祠のようなつくりの井泉の脇を余り水が流れ
る岩肌の上。
ほんの1メートルほどの低い高さ。落ちた水はすぐに排水
路へ続く。周辺の景観から水の流れだけを切取るといい絵
になった。
変わらざる水音のあり落椿 (桑垣信子)
〔補追〕
「ティミジ」は許田の小字の一つの名でもある。
小字ティミジ(手水/手水原)は許田の中心部であり最も
古い集落だという。許田の小字手水の湧水は、恋物語
の民間伝承が生まれるほど旅人にもよく知られた樋川
の井泉だったのだろう。
見る人はつめていきかはりがはり
いつも流れゆる許田の手水 (粟国親雲上)
ヤブツバキの花は萼と雌しべを木に残しぽとりと落ちる。
椿またぽとりと地べたをいろどった (山頭火)
たましひは枝にのこして落椿 (鷹羽狩行)
椿落ちてきのふの雨をこぼしけり (蕪村)
ひとつ咲きひとつ落として椿かな (岡 恵子)
ため息の数だけ落ちて花椿 (そら紅緒)
一輪の落ちて蕊立つ冬椿 (深見けん)
咲いた花より落ちた花に心を動かされるようだ。落ちた
椿の花をよんだ句は多い。
ヤブツバキ(藪椿)の花。まだ半開き。
ヤブツバキは山地に生える常緑の亜高木。樹高は沖縄
で普通に見かけるのは3~5メートル。
藪ツバキの名は野生のツバキの意味で、一般にツバキ
という場合はヤブツバキのことだという。
開花時期は12月~3月と長く冬から春まで花をつける。
木の実は11月頃。実から採った油が椿油。
ツバキの葉は厚く光沢がある。ツバキの名の意味は
幾つか説があるが、どれも葉の光沢に基づいている
と植物学者の牧野富太郎が分りやすく説明している
(『牧野富太郎 なぜ花は匂うか』)。
(1)葉が厚いからアツバキという意味で、その「ア」が
とれてツバキになった。
(2)光葉木(てるばき)で、その「テル」縮まると「ツ」に
なるので、ツバキになった。
(3)艶葉木(つやばき)の意味で、それがツバキになっ
たものである。
ヤブツバキの中国での表記、いわゆる漢名は「紅山茶
(こうさんちゃ)」。ツバキの葉が茶に似ていることから
「山茶(さんちゃ)と名づけられたという。
中国では「椿」は別の樹木のことだそうでややこしい。
椿(ツバキ)は歳時記で春の季語。
漢字表記の「椿」は、「春の事触れの花」の咲く木の意
味という。